サービス業フランチャイズ雑感

FC業界で働く中小企業診断士が、感じたことを感じたままに書いています。

サービス業FC関連時事(2021年5月)

緊急事態宣言の延長が決まり、様々な業界から経営に対する強い危機感の声が上がっています。日本酒「獺祭」の旭酒造は、5/24朝刊に『飲食店を守ることも、日本の「いのち」を守ること』と意見広告を掲載し反響を呼んでいます。

実際、大手居酒屋チェーン13社の昨年末時点の店舗数は6,136店で、新型コロナ感染拡大前と比べて873店舗減りました。8店に1店が閉店し雇用が失われているということです(5/8日経朝刊)。

6月以降は休業要請の一部が緩和され、映画館やアミューズメント施設は営業再開の動きが見られます。しかし、観光業界をはじめサービス業でも経営再開の見通しが立たない業種もあります。ワクチン接種の体制をできる限り早く構築し、人流のある安心の日常が戻ることを願っています。

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稼働率低下による業績悪化の立て直しを進めるプリンスホテル

4月の国内ホテル平均稼働率は、3か月ぶりに低下して35.8%となりました。新型コロナによる「まん延防止等重点措置」「緊急事態宣言」が出された結果、コロナ禍前は約80%あった稼働率は急落。昨年後半に復調したものの、今年に入り低下も目立っています(5/25日経朝刊)。

前期最終損益がマイナス723億円と過去最大の赤字幅となり、厳しい状況が続くプリンスホテル(西武HD)の後藤社長は、今後不採算施設の売却や資産の流動化を加速する方針を打ち出しています。具体的には、都心のホテルを中心に建物を売却した上で運営受託する方法を検討するようです(5/8・5/14日経朝刊)。

一方、ワーケーション向けに一部改装した軽井沢プリンスホテルは、ゴールデンウイーク中の稼働率が約70%と健闘しています。新業態の「プリンススマートイン」は、ドアマンやコンシェルジュの接遇をやめ、スマートフォンアプリやデジタルサイネージでサービス提供をおこない、20~30代の客層に支持されています。

コロナ禍で求められる「おもてなし」の質の変化に対応し、将来的にはフロント業務の無人化も視野に入れているそうです(5/21日経MJ)。

コロナ禍の「非対面」「テレワーク」ニーズに対応したサービス業FC

プリンスホテルの事例でもあるように、新型コロナで加速したニーズのひとつが「非対面」です。不動産仲介の日本エイジェントは、タブレット端末を置いた無人窓口「スタッフレスショップ」で、オンラインで物件紹介をおこなう仕組み作りを始めています。

事前に入力した希望条件を基に、スタッフはビデオ通話で相談や提案を行い、内見もオンライン経由で可能です。接客時間はこれまでの約2分の1、接客数は約1.7倍に増えたそうです(5/14日経MJ)。

感染予防に加えて、人材確保に苦労していた業態や、接客力を単価アップに結び付けにくい業態では、DX化を進め非対面でのサービス提供を積極的に推進しています。ただし、商品力・サービス力が他社との競争の前面に出るため、顧客の定着やファン化にはさらに工夫が必要でしょう。

もう一つの増加ニーズは、テレワーク関連です。コワーキングスペースを全国に300か所以上展開するいいオフィスは、月額2万円で全国のオフィスが使い放題となるプランを設定していますが、県内限定のプランを福井県でスタートさせます(5/8日経朝刊・北陸)。県内の起業や事業者間の連携の推進につながることも期待されています。

激化するデリバリーサービスのシェア争いと「稼ぐ力」

デリバリーサービスもコロナ禍において拡大した業態です。ところが、テレビコマーシャルなどで一躍有名企業となった出前館の現在の株価は、2020年12月末比で4割下落しているそうです(5/15日経朝刊)。

急速に市場が拡大する中で、競合他社とのシェア争いのため広告宣伝費やシステム投資、配達業務の委託費などが増加した結果、営業キャッシュフロー・投資キャッシュフローともに大幅に悪化して「稼ぐ力」に疑問符が付いています。

2年前に政府が実施した「キャッシュレス還元事業」の際に、QRコード決済アプリの利用者数や加盟店シェア争いが繰り広げられました。デリバリーサービスのシェア争いは、ウーバーイーツ・フードパンダなどの海外資本勢、menu・楽天デリバリー・ファインダインなどの国内勢による熾烈な戦いが続いています。

2023年には約6,800億円規模に拡大するといわれるフードデリバリー市場では、特色あるメニューを持つ強い加盟店の開発と、注文の利便性や配達品質の向上による差別化が今後も求められ、その中から「稼げる企業」が誕生すると思われます。

 

新型コロナによる生活習慣の変化で、需要が一気に消失した業種がある一方、物流、通信、教育などニーズの増加で進化し続ける業種もあります。

ポスト・コロナで産業や生活はどうなるかという議論が活発ですが、これまでの政府の施策を振り返ると、すでに現在がポスト・コロナであり、一度加速した変化の速度は衰えずに今後も続くのではないかと考えています。